【やばいぞ日本】第2部 資源ウオーズ(11) 放置すれば暴動の悪夢●●コメント●●
2005年10月、パリ郊外で起きた移民らによる暴動がフランス全土に波及し、路上の車などが次々に焼き討ちされた。こうした悪夢が日本でも起こらないとは言い切れない。岐阜県ブラジル人労働問題懇談会の座長だった岐阜大学の寺島隆吉教授は「あってはならない最悪の事態」として次のような三段階のシナリオを描く。
それはX年のことだ。生活保護を受ける外国人が増え、国や自治体の負担が拡大する。不法滞在などの外国人がホームレス化し、集住地域の一部がスラム化する。日本人の失業者を中心とした外国人排斥運動が高まり、それに反発する外国人らの暴動が起きる…
外国人比率が最も高い自治体である群馬県大泉町。4万人強の住民のうち、外国人は16%、6780人。その大半は日系ブラジル人だ。ここで国際交流協会会長を務める山口武雄さん(67)もこう心配する。
「あと何年かしたら、年金をもらえない高齢外国人が町中にあふれるだろう。それがどれだけ深刻な問題か、誰も気付いていない」
平日の日中、ブラジル人向け商店のベンチに、高齢の外国人らが手持ちぶさたで座り続ける姿が目立っている。
「2週間前から仕事がないよ」。61歳の日系人がぽつりと言った。15年前に来日し、派遣会社の斡旋(あっせん)で金属部品工場などで働いていたという。 だが、60歳になると仕事の依頼が激減、今はたまにアルバイトがある程度。「ネンキン?そんなの入っていないよ」と力なく答えた。
山口会長によれば日系ブラジル人が増えたのは、入管難民法の改正で日系人の自由就労が認められた1990年から。
極度の人手不足に悩んでいた大泉町の商工会関係者らもブラジルに足を運び、日系人の誘致に奔走した。来日した日系人らは、長時間作業するなど日本人が敬遠する3K職場に従事し、日本経済の下部構造を支えた。
山口会長は「日系人がいなかったらこの町はとうに廃れていた。彼らは町の恩人」と振り返る。
そして今、当時40代半ばの働き盛りだった人たちは、年金世代にさしかかっている。
日本の労働力減少は深刻だ。厚生労働省の試算では2030年までに、日本人の労働力人口が最大で1000万人減る。高齢者や女性の雇用拡大が進んでも、500万人以上が働く現場から姿を消す。それは経済縮小、税収低下をもたらす。
外国人労働者の受け入れは、人口資源の確保が切実な日本にとっては切り札にもなりうる。
政府は、外国人労働者について高度な技術や専門的知識をもつ人材の受け入れに積極的だが、単純労働者については「国民生活に与える影響が大きい」と慎重な立場だ。
ただ、「定住者」の資格を持つ日系人には単純労働を含む自由な就労を認めている。国内の労働力不足を補う意味もあるとされる。それだけに日系人受け入れは外国人労働者問題の今後を占う。
ところが日本の態勢は未整備だ。年金未加入について、どの自治体も正確な数を把握していない。データがなければ、有効策を打ち出せない。
国も同じだ。米国やドイツなどの先進国とは2国間協定を結び、日本でかけた年金が掛け捨てにならないよう、相手国の年金に加算される仕組みがある。ところが、最も必要なブラジルなどとは協定を結んでいない。
この問題に関する政府の関係省庁連絡会議は昨年末、「外国人を雇用する事業所に社会保険への加入促進を強力に推進する」と、実態調査を進める方針を示したが、今のところかけ声だけだ。国策として取り組むべき問題が放置され続けている。
高齢化した出稼ぎ日系人
「日本人と日系人の感情的なもつれが、いよいよ表面化しはじめた」
静岡県で国際交流関係の仕事をしている日系人相談員が声をひそめた。
引き金となったのは、同県内で相次いだブラジル人がらみの犯罪だ。2005年10月、湖西市の市道交差点で赤信号を無視した軽乗用車が乗用車に衝突し、乗 用車に乗っていた2歳の女児が死亡した。翌月、浜松市でレストラン店主が絞殺され、現金を奪われた。昨年12月には焼津市のアパートでブラジル人母子3人 が殺害された。
これらの事件の容疑者はいずれもブラジル人。ところが3人とも国外に逃亡してしまったため、地元を中心に大きな社会問題になった。
日系人相談員によれば事件後、日本人から差別されたと訴える相談が増えたという。
「PRECONCEITO(偏見だ)」。在日ブラジル人向け週刊新聞「TUDO BEN」(東京都文京区)の6月30日付の1面に、大きな見出しが躍っ た。7月14日付の1面も「NOVO(新たな) PRECONCEITO」。いずれも、静岡県内で日系ブラジル人らが家を新築しようとしたり、外国人向け のアパートを建てようとしたところ、近隣住民の反対で計画が中止されたという内容だ。ブラジル人犯罪を不安視する住民らの様子を伝えながら、偏見を問題視 していた。
警察庁のまとめでは刑法犯で逮捕されるブラジル人は04年まで毎年増加し、1000人の 大台を超えた。中国人に比べれば3分の1以下であり、国外に逃亡する容疑者も、中国人の291人(昨年末までの累積)に対し、ブラジル人は92人にとど まっているが、ブラジル人への風当たりは強い。
浜松市の国際交流協会職員、三池・アリセ・ミホさんは「ブラジル人の場合、日系人を中心に永住希望者が多いため、日本人は事態をより深刻に受け止めている。ブラジル人も偏見や差別的な言動に敏感になっている」と指摘する。
日本人の側も問題がある。悪質な派遣業者が日系人らを低賃金で酷使したり、会社負担を減らすため年金など社会保険に加入させなかったりするケースが後を絶たない。
法務省入国管理局によると、家族を含めた06年現在の外国人登録者数は208万4919人で過去最高を更新した。中でも中国人や日系ブラジル人が急増を続 ける。中国人は20年前の8万4397人から6・6倍の56万741人に、ブラジル人は2135人から147倍の31万2979人に達した。
前述の寺島教授は「日本人自身、ワーキングプア(働く貧困層)といわれるほど就労条件が悪化している。このまま双方の不信感が増大すれば、危機的状況を迎える」と警告する。
その一方で日本人と外国人の共生を探る動きも出始めている。岐阜県内で外国人児童・生徒の教育支援に取り組み、今年6月にNPO法人となった「ブラジル友の会」の金城・エジウソン会長はこう語る。
「日本人と外国人の不信感が広がっているのは残念。本当の信頼関係を築くには多くのハードルがある。でも、希望がないわけではない。最近、会の活動に協力してくれる日本人が増えている。お互いがもっと知り合えば、きっといい関係が保てるはずです」(川瀬弘至)
外国人の生活保護、高齢化の問題
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