2009-10-13

第2回 トヨタ志望の人材は、ホンダよりもパナソニックで幸せになる

:::引用:::
10月1日、各社において来春入社予定者の内定式が行われました。もちろん新入社員を採用した会社に限った話ですが。日本経済新聞が行った調査によれば、内定者数は今春に比べ34%も減ったそうです。不況で採用を見送った会社にとっては、静かで感慨深い1日だったのではないでしょうか。

 中途採用市場も風前の灯(ともしび)です。昨年の夏くらいまでは新聞の日曜版に溢れんばかりに掲載されていた求人情報が、今年に入ってからは見る影もありません。人材紹介会社を経営する知人も、未曾有の危機に直面して、大幅な人員削減という苦渋の決断を行い、安いオフィスへと引っ越して生き残りをかけています。

 トンネルの出口はまだ見えませんが、人材採用がなくなることはありません。会社はそもそも人でできているからです。いずれ定年や転職、その他の事情で辞めていく人が出てくると、効率化を進めつつも補充が必要になります。会社を再び成長路線に乗せるためには新規採用が不可欠です。

 ものは考えようで、容易に会社を移ることのできない今の時期こそ、自分にとってどんな会社や仕事が向いているのかを冷静に考えられるチャンスです。
会社側が採用選考時に最も重視している要素

 経団連が会員企業に対して毎年実施している「新卒者採用に関するアンケート調査」によれば、採用選考時に重視する要素の第1位は6年連続で「コミュニケーション能力」だそうです。ちなみに第2位は「協調性」、以下3~5位は「主体性」「チャレンジ精神」「誠実性」と続きます。

 アンケート項目の設定の問題もあるでしょうが、企業側が求めている要素は、能力やスキルに寄っているように感じます。確かに仕事をする上で、それらの要素は大切なことでしょう。過去の採用と入社後の経験則から、日本的な組織において高いパフォーマンスを期待できる要素と見ているのです。しかし人は能力さえ高ければ、その会社において高いパフォーマンスをもたらしてくれるでしょうか。

 プロ野球でも世界のサッカーチームにおいてもそうですが、高い能力をもった選手だけを買い集めても、彼らがチームとして機能しなければ優勝どころか上位にさえ入れない事実を私たちは知っています。

 優勝するチームには、チームとしての哲学があり、監督の信じる戦術があり、これに共感してプレーする選手がそろっています。それは会社という組織にとっては、「目的」であり「価値観」です。目的と価値観を共有し、チームとして高いレベルで機能するからこそ、高いパフォーマンスを生むことができるのです。

 すなわち、会社が採用選考時に重視すべき要素の第1位は、「コミュニケーション能力」と同じかそれ以上に、「目的と価値観=企業理念への共感」なのではないでしょうか。会社をモノではなく、目的と価値観で選ぶ

 一方、応募する人材側は何を最も重視して、就職先となる会社を選んでいるでしょうか。

 毎日コミュニケーションズが発表した、2010年卒業予定の学生を対象とした「就職意識調査」によれば、第1位は調査開始以来9年連続で「自分のやりたい仕事ができる会社」。ダントツの1位です。第2位は昨年3位だった「安定している会社」。第3位は「働きがいのある会社」でした。

 「自分のやりたい仕事ができる会社」が何を意味しているのかは、やや抽象的でわかりにくいのですが、実際の学生の就職活動を見ていると、業界と職種を意味しているようです。

 職種について言えば、多くの外資系企業では当たり前となっている職種別採用は、日本企業でも登場したものの、まだまだ少数派。一部の研究職や営業職などを除いては、「総合職採用」の名のもとに、4月の配属発表まではわからないというのが実態です。となれば「せめて好きな業界で働きたい」と思う気持ちは理解できます。

 自動車が大好きなAさんは、せめて「自動車に関われる仕事」を自分のやりたい仕事として、自動車業界を志向することになります。そこでたとえばトヨタとホンダと日産の門を叩くのです。自動車の場合、嗜好性が強いので、トヨタしか受けないという人もいるでしょうが、根底にあるのは「(その会社の)自動車が好きだから」というモノに対するこだわり。

 ここでAさんが「自動車は好きだけれど趣味としてつきあっていければいいか」と業界へのこだわりを捨てることができれば、Aさんの幸せな仕事人生のために私からご提案があります。それは、「モノより、目的と価値観=企業理念で会社は選べ」ということです。

 あえて薦める理由は2つあります。1つ目の理由は、モノは変わるかもしれないということです。トヨタが10年後に自動車を作らなくなっているとは言いませんが、トヨタはすでに自動車以外のモノやサービスを提供し始めています。4月に自動車以外の部門に配属になってしまうと、Aさんの夢は幻となってしまいます。入社時でなくとも数年後の異動でそうなるかも知れません。その時はホンダに転職しますか? ホンダで自動車部門に配属されればいいのですが。

 大企業でなくとも一定規模以上の会社であれば、扱っているモノは1つではありませんし、時代とともに拡大し変化していくことはむしろ必然です。モノへのこだわりは意外なところで覆される可能性があります。ところが「目的と価値観」=企業理念は、10年やそこらで大きくは変わりません。

 私が薦めるもう1つの理由は、「目的と価値観」が一致していると、仕事上でのストレスも少なく、個人としてもチームとしても高いパフォーマンスが上げられることです。先ほどお話ししたプロスポーツの世界を思い出してください。仕事の楽しさや喜びはもちろん、結果として待遇やポジションも得られる可能性が高くなります。

 会社ごとの「目的と価値観」の違いは、各社が掲げる企業理念に当たる言葉の1行目を見ればある程度わかります。なぜなら会社として最も大切にしたいことは、1行目に書いてあることが多いからです。

 読者のみなさんは、自分の会社の企業理念はもちろん、他社の企業理念を読んだり、比較してみたことがあるでしょうか。試しに自動車業界を代表してトヨタとホンダ、家電業界を代表してソニーとパナソニックの企業理念の1行目を比較してみましょう。企業理念の1行目で、各社が大切にしていることが見えてくる

 まずは自動車業界を代表して、トヨタとホンダの企業理念の1行目を比較してみましょう。

 トヨタの企業理念の 1行目には、「1. 内外の法およびその精神を遵守し、オープンでフェアな企業活動を通じて、国際社会から信頼される企業市民をめざす」とあります。トヨタの真面目で誠実な姿勢は何となく伝わってきますが、残念ながら目的や価値観はよくわかりません(この点についてはまた別の回に取り上げます)。

 しかしトヨタには、創業以来今日まで、トヨタの経営の核として貫かれてきた『豊田綱領』があります。創始者、豊田佐吉さんの考え方をまとめたもので、「トヨタ基本理念」の基礎となっています。その1行目は次の通りです。

 「一、上下一致、至誠業務に服し、産業報国の実を挙ぐべし」。

 文語調ですのでややわかりにくいですが、社長も現場も関係なく誠実に仕事に向かい、事業を通して、産業、日本、世界の発展に尽くそうという方針が明確に示されています。会社として最も大切にしようとしている目的や価値観が伝わってきます。ホンダと比べてみましょう。

 企業理念の中心となる『Honda Philosophy(ホンダ・フィロソフィー)』のタイトルは、「夢を実現する力が、次の夢を生む」。

 運営方針の1行目は「常に夢と若さを保つこと」。解説文には、結果「幅広いカテゴリーで独創的な技術・商品を開発する企業へと成長」したとあります。トヨタとホンダの企業理念の1行目を比較してみると、両者の違いが見えてきます。

 私は講演で、企業理念が浸透している会社の例としてトヨタとホンダを取り上げる際、あるゲームを始めます。ホワイトボードの真ん中に縦に線を引き、両社の社名を線の左右の上に書いて、参加者に「あなたの抱いている両社を表すキーワードを、トヨタが○○に対してホンダは○○という風に挙げてください」と順に発表してもらうのです。

 ある時、30歳代の男性サラリーマンが中心であったにも関わらず、多くの人が車や免許さえもっていないことがありました。さすがに厳しいかなと心配したのですが、次から次へと異なる表現が出てくるのです。「質実剛健に対して自由奔放」「現実に対して夢」・・・という風に。たくさんの言葉で埋め尽くされたホワイトボードの、トヨタ、ホンダそれぞれをまとめてみると、まさに企業理念の1行目の内容にぴたりと重なっているのがわかります。

 講演のたびに答える人は変わるのですが、やはりぴたりと重なります。両社のモノに普段から接している人はもちろん、接する機会がない人にさえも、それぞれが大切にしていることが伝わっている。長い歴史の中では迷走した時期もあるでしょうが、「目的と価値観」が全社で共有されている代表例と言えるのではないでしょうか。
トヨタが大切にしていることは、ホンダよりもパナソニックに近い?

 次に家電業界を代表して、ソニーとパナソニックの企業理念の1行目を見てみましょう。

 パナソニックの企業理念にあたる『綱領』は、昭和4(1929)年に創業者の松下幸之助さんが制定したもので、「以来、現在に至るまで、私たちは常にこの考え方を基本に事業を進めてきました」と書かれています。

 その1行目は、「産業人タルノ本分に徹シ」で始まり、「社会生活ノ改善ト向上ヲ図リ」と続きます。意味は「産業を支える人間としてその仕事に徹し、社会生活の改善と向上をめざそう」となるでしょうか。どこかトヨタに近い印象を抱きませんか。扱っているモノは違えど、ホンダよりも目的や価値観が近く感じられないでしょうか。

 ソニーを見てみましょう。ソニーの『設立趣意書』の「会社設立の目的」の1行目は「一、真面目なる技術者の技能を、最高度に発揮せしむべき自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」とあります。技術者の技能を最高度に発揮せしむ、自由闊達、愉快なるといった言葉に、扱っているモノは違えどホンダとの共通点を感じないでしょうか。

 電気自動車の登場によって、パナソニックやソニーが自動車分野に参入しないとは断言できなくなりました。電気自動車は従来の内燃エンジンとは仕組みが全く異なり、すでに米国のITベンチャーが参入しているほど、技術的にも資金的にも参入障壁は低いそうです。Aさんの夢は、意外とパナソニックに入社して実現してしまうかもしれませんね。幸せな仕事人生の新たな一歩のために

 果たしてトヨタやホンダ、パナソニックやソニーのように、「目的と価値観」が企業理念の1行目に比較的わかりやすく書かれていて、しかも社内にしっかりと浸透している会社が、世の中にどれくらいあるでしょう。

 みなさんの会社の企業理念の1行目には何と書いてあるでしょう。何を一番大切にするか、それはなぜかが、分かりやすく書かれているでしょうか。わかりやすく表現されていなくても、人づてに社内で浸透共有されている例もあります。会社の歴史も参考になるでしょう。「会社の歩み」や「沿革」を追ってみてください。意外と、会社としてずっと大切にしてきた目的や価値観が見えてくるかもしれません。

 あなたが新たな会社を探す際は、業界や職種も重要なファクターでしょうが、その会社の企業理念、目的や価値観を確認してみてください。幸せな仕事人生のヒントになると思います。

 本日のコラムはいかがだったでしょうか。【引き続き、みなさんからのたくさんのご意見、ご感想をお待ちしております】→こちらから

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<いただいたご意見、感想、質問をご紹介します>

 今回のシリーズでも第1回から多くのアンケートへのご回答、そしてコメントをいただきました。本当にありがとうございました。要約してご紹介したいと思います。

 まずはJR西日本と事故調査委員会に対する厳しいご意見から。
「山崎前社長、土屋副社長の2人を厳しく評価すべきと思う」
「JR西日本以上に守秘義務がある事故調査委員会の行為が、なぜあまり糾弾されないのかが不思議でならない」
「当事者だった経営陣が何故今でも取締役として残っているのか。不正と思っていない人に原因を究明するのは無理だ」
「一番の問題は調査委員会に旧国鉄の社員を入れてしまうことだと思う。技術上一番詳しいのは専門家である国鉄社員であると云うけど、そうとは限らない」

 JR西日本と調査委に関する報道および、このコラムの内容への反論もいただきました。
「ハードシステムおよび業務完成度が高い鉄道設備ゆえに原因解明は難しい。だからこそ(調査委が)国鉄元社員になったものと思われる」
「事故調査委員会の目的は再発防止、システム改善であって、犯罪の捜査ではない。事故調査委員会の活動に働きかけをすることが非難されるべきこととは思わない」
「きっかけは個人のミス 100%は個人のミスにある。組織のトップとしては責任をとらなければならないが人格まで貶める報道はやめるべき」

 事故、事件に対する次のような視点でのご意見もありました。
「7分遅刻で大きくとがめる、窮屈な日本の社会が巻き起こした大事故だと思っている」
「日本ではこのような事故が起こったときに刑事罰をもって処罰するという体質が今回のような事態をまねたいのではないか。他の先進国のように刑事罰を免除し、事故の全容を解明するという姿勢が必要なのでは」

 事故後のJR西日本の運行についてのご意見です。
「(事故後の)今のJR西日本は、安全第一の名のもと、何でもかんでもすぐに止める。経営陣の自己保身をしているに過ぎない。公共交通機関として、定時性の放棄をしている」

 このコラムシリーズについて、以下のようなご意見をいただきました。
「企業理念=マニフェストは違和感を感じる。企業から見れば、マニフェストは中長期戦略のようなもの。企業理念は世の中によって立つところで、社長がまず企業理念を見直すと言う事も短絡的で軽く感じる」

 このコラムでは、企業理念を「経営者が何を大切にしながら何をめざして経営するかを社内外に約束し宣言するもの」として捉え、マニフェストと表現していますが、説明がないと違和感を感じられるかもしれません。ページ下の「このコラムについて」に説明を補足しました。企業理念はおっしゃる通り、その会社が世の中に寄って立つところで軽いものではありませんが、だからこそ経営者が本当に責任を持てるかどうか見直す必要があると私は考えています。

 「価値観を社員全員が共有している会社があるとは思えません。価値観なんて個々に違うんですから」
 ご指摘の通り、人間の価値観は多様です。100人いれば100人とも違うでしょう。私が申し上げているのは、会社として譲ることができない“限られた”いくつかの価値観についてです。それ以外の価値観は共有できなくても、働く上で問題はないのだと考えます。

 最後に次のような感想をいただきました。
「いつもながら分かりやすい説明。企業理念の共有について今回も色々学んでいきたい」
「是非ともいろんな企業や官庁のTOPから一般従業員をもっともっと幸せにするために、このシリーズを続けてください」
 みなさんのご意見やご要望も参考にさせていただきながら、さらにお役にたてる内容をめざして参りたいと思います。

 【引き続きみなさんからのたくさんのご意見、ご感想をお待ちしております】→こちらから
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