2007-08-15

中国における人手不足の原因は何か 日本総研記事

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中国における人手不足の原因は何か 
沿海部の主要都市で人手不足が深刻化している。原因は農村労働力の供給余力の低下とWTO(世界貿易機関)加盟以降の沿海部における投資の増加に伴う需要の急増に求められる。

■深刻化する人手不足
広東省の珠江デルタを中心に人手不足に陥る工場が増えている。「民工荒」(農村からの出稼ぎ労働者である「農民工」の不足)と呼ばれるこの現象は2002 年頃から散見されるようになり、2004年に深刻化し、今日まで続いている。広東省の主要都市では過去2年間で最低賃金が4割程度引き上げられたにもかか わらず、人手不足が解消する兆しはない。同省では2006年に730万人の求人があったのに対し、求職者は480万人に過ぎず、工場の6割が人手不足に 陥った。2007年もこの傾向は続くとみられている。現地報道では、旧正月に帰省した労働者のために迎えのバスを手配する、あるいは、帰省を機に友人をリ クルートすれば報奨金を出すといった経営者の苦労が盛んに紹介されている。

その一方で中国の失業率は依然として高い。2006年の都市の失業率は前年より0.1ポイント低下し、4.1%となった。しかし、この統計に含まれない農 村および新卒(大学)の失業者を加えると失業率は8%に達するとされる。実際、2005年5月に実施された第1回青年就業状況調査報告によると、15〜 29歳までの若者の失業率は9%と、都市の平均失業率を大きく上回り、若者の就職難が社会問題化しつつある。

賃金の高い日系企業での影響は軽微とされているものの、人手不足が労働市場の構造的な変化に伴うものであるとすれば、影響が日系企業に及ぶのは必至であ る。チャイナプラスワンが叫ばれる今日、人手不足がどのような要因によってもたらされているのか、労働市場の変化を検証することの意義は少なくない。

■規模が縮小した農村労働力の省間移動
人手不足は上海を中心とする長江デルタや内陸の都市にも及んでいるとされるが、恒常化してい るのは経済発展が著しい沿海部、とりわけ広東省の珠江デルタである。また、不足しているのは労働集約的な業務に従事する若年労働者である。沿海部の未熟練 労働者の多くは、中部からの出稼ぎ労働者であり、人手不足はここになんらかの変化が起きている可能性を示唆する。

「中国農村労働力就業及び流動調査」によれば、就労を目的に戸籍地を離れた農村戸籍保有者は2000年時点で1億1,138万人に達していた。このうち省 間移動者は全体の24.9%(2,824万人)に相当し、安徽、江西、河南、湖北、湖南、広西、重慶、四川など主に中部に位置するこれら8省・市で全体の 77.2%(2,179万人)を占める。

この省間移動の規模が2002年を境に大幅に縮小している(右図)。2000年と2001年の省間移動者はそれぞれ前年比707万人増と857万人増で、 1999〜2001年までの平均値をとっても毎年600万人規模の新規移動があった。ところが、2002年以降はそれまでの約3分の1の200万人増の規 模にとどまっている。冒頭で述べたように広東省だけで2006年の求人者数は730万人に達し、求職者数との間に250万人の差がある。省間移動規模の縮 小が人手不足を招いた一因であることは間違いない。

■沿海都市における需要の急拡大
しかし、人手不足に最も影響を与えたのは需要側の要因である。前述した「中国農村労働力就業及び流 動調査」によれば、省間移動における主な移動先は、北京、上海、浙江、福建、広東であるが、これら沿海部の5省・市で2,111万人と全体の74.8%を 占める。なかでも広東省が1,459万人と全体の51.7%を占め、省間移動の2人に1人が同省に向かっていることになる。この5省・市ではWTO加盟を 受けて投資が増加し、未熟練労働者に対する需要が急増した。

図は各省・市における第二次および第三次産業における就業者の伸びを1997〜2001年と2002〜2005年の二つの期間で比較したものである。5 省・市における第二次産業の就業者数は、1997〜2001年では伸び率がゼロであったのに対し、2002〜2005年は年平均9.0%の増加に転じた。 年平均296万人の雇用が生み出されたことになる。1999〜2001年のように600万人前後の省間移動があれば、これを埋めることは不可能ではない が、2002年以降は200万人程度に過ぎない。人手不足の主因が沿海部の投資過熱によるものであることは明らかである。

このほか沿海部の急成長がサービス産業における需要を喚起し、農村労働力が飲食業などのサービス業に吸収されたことも大きい。5省・市における2002〜 2005年の第三次産業の就業者は年平均7.4%の高い伸びを示した。伸び率では第二次産業を下回るものの、雇用に占める第三次産業の割合は第二次産業よ り大きいため、5省・市では第三次産業においても第二次産業と同規模の年平均287万人の雇用が生み出された。これに前述の第二次産業における雇用を合わ せると、5省・市では2002年以降、年平均583万人の雇用が生み出された計算になる。これは600万人規模の省間移動があったとしても埋めきれない需 要である(5省・市に向かうのは600万人の74.8%に相当する449万人となるため)。

中国の人口は2030年に、労働力人口はそれよりも早い2015〜2020年頃にピークを迎えるとされており、需要側に大きな変動がなければ、人手不足が 短期間のうちに悪化する可能性は低いようにみえる。しかし、供給側では、2010年から若年人口が大幅に減少するとともに就学率の上昇に伴い若年労働者の 労働参加率が低下することが予想されるため、問題が緩和に向かう可能性は少ない。仮に上海万博後に成長率が鈍化し需要側の要因が弱まっても、今度は供給側 の要因が強まることになるからである。広東省では内陸への工場移転が盛んとされるが、それは必ずしも賃金の上昇を回避する解決策にならない可能性がある。
●●コメント●●
中国の経済発展に伴う人材不足の記事。より貧富の格差が広がっている。

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