2009-06-20

「世界の工場」が再び人手不足に!?

:::引用:::
4月以来、台湾人実業家の黄清儒はことのほか忙しい。

 「ついこの間まで注文がなくなることを心配していたのに、今は受注が増え過ぎるのが心配だ。運転資金と人手が足りず、おいそれとは注文に応じられない」。そう話す黄清儒は、資金繰りと従業員集めのため東奔西走する毎日だ。

 珠江デルタ*の工業地帯では、ここにきて一部の工場に受注が戻り始めている。これらの工場では、第1四半期(2009年1~3月)に比べて受注が大幅に増え、人手が足りなくなる例が出てきた。このままでは、珠江デルタ全体が再び人手不足に陥るのではないかと懸念する経営者もいる。

*広州、深セン、東莞など広東省の珠江河口地域の総称。中小から大手まで輸出製造業の工場が密集し「世界の工場」と呼ばれる。  黄清儒は、かつて米シリコンバレーで起業した経験を持ち、その後広東省東莞市でIT(情報技術)企業を立ち上げた。主力のLED(発光ダイオード)関連製品では、世界的な大手メーカーの委託生産を数多く手がけている。

 「最近は注文が増える一方だ。もし全部引き受けたら、年末までの仕事量をほぼ確保できるほどだ」

 今年1月から2月にかけて、黄清儒の会社では受注と運転資金が底をつき、1000人以上の従業員が工場を去っていった。会社は存亡の縁に追い込まれ、一時は生産設備を売却した場合の試算までした。「受注がこれほど早く回復するとは予想もしなかった」。

景気が底を打ったとは断言できず

 東莞市政府の対外貿易担当副市長の江凌によれば、「地元経済は依然として低調だが、景気底入れの兆しが徐々に現れ、企業は落ち着きを取り戻し始めている」という。同市の統計では、3月の貿易総額は69億3000万ドル(約6583億円)と2月より29.1%増加した。

 中山大学香港マカオ珠江デルタ地域研究センターの副主任を務める袁持平は、受注回復の背景について次のように指摘する。

 「増えている受注には2つの特徴がある。まず、欧米企業の在庫整理が一巡し、製品の補充ニーズが出てきたこと。もう1つは、主に消費財ということだ。こうした現状から、経済危機が最悪期を脱したかどうかを判断するのは難しい」

 袁持平によれば、受注回復の主因が欧米企業の在庫一巡に伴う補充に過ぎなければ、景気後退が底を打ったとはまだ断言できない。一方、珠江デルタには消費財やその関連製品の工場が多いため、(重工業主体の)他の地域に先んじて景気の底を確認しやすい面もあるという。

 受注回復への対応に追われる黄清儒も、まだ安心はしていない。
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