◇泣きやまない子と2人きり 「このままでは虐待してしまう」
戦後、外で働く夫と役割分担し、家事・育児を担ってきた専業主婦。だが、最近の出生動向をみる限り、働いている母親よりも多産というわけではな い。時間や余裕が比較的ありながら、何が壁になっているのか、不足しているものは--。第2部は専業主婦が抱える問題を4回に分けて探る。
◇悩み、焦り…孤立感から、うつ状態に
「隣のおじちゃんは、わが子のようにかわいがってくれた。近所のお兄ちゃんとは、兄弟のように遊んだ」
東京都練馬区の優子さん(28)=仮名=は、自分の子ども時代をこう振り返る。1児の母となり、今は孤立感が強い。マンションに子どもの姿はなく、あいさつさえかわさない住人がいる。「ずっと練馬に住んでいるのに、子育て環境がまるで変わってしまった」
長男を出産したのが昨秋。夫は家事も育児も手伝ってくれるが、昼間は2人きり。泣きやまない子どもを抱っこし、部屋の中を歩き回りながら「あれを しなきゃ」と焦るが、思うようにならない。妊娠前に患っていたうつ病の薬は母乳に影響があるので飲めない。そこに育児不安が重なり、育児や家事が苦痛に なっていった。
「どうしたらいいの」。保健師に相談しても壁を感じた。実の母は妊娠前に亡くなった。誰に助けを求めていいか分からなかった。
泣きやまない長男をつい乱暴に扱い、自責の念から泣いた。「このままでは子どもを虐待してしまうかも」
長男が4カ月になったころ、インターネットで見つけた、近くの子育てひろば「関ぴよぴよ」に顔を出してみた。最初は、他のお母さんたちが楽しそうに子育てしているように見え、「なぜ私にはできないんだろう」とつらかった。
しかし、スタッフのさりげない声かけが心地よかった。育児の悩みを実の母親のような感覚で何でも話せ、気持ちが楽になった。
同じ場所で乳幼児の一時預かりもしている。体調の悪い時やリフレッシュのため、月に1、2回利用するようになった。子どもと少し離れることで、素直に「かわいい」と思えるようにもなった。
ただ、それでも負担感は完全にはなくならない。「2人目は当分無理かな」。そんな言葉も漏れる。
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足立区の広瀬栄美子さん(32)も孤立感に悩んだ。
昨春、長女優凪(ゆうな)ちゃんを出産。1468グラムの未熟児で、「小さく生まれたのは自分のせい」と自らを責めた。子どもが退院し、家で2人きりの生活になり、これから先やっていけるのか、不安でいっぱいになった。
3、4時間寝ていたら「死んだんじゃないか」と脈を取り、1日に何度も呼吸しているかどうか確認した。
そのうち、夜眠れないなど、うつ状態に。でも、通院したくても子どもをみてくれる人がいない。会社員の夫の帰宅は毎晩10時。休みも週に1回しかない。実母とは幼いころ生き別れた。
家庭訪問に来た保健師に、子育て家庭を支援する「ホームサポート」の制度があると聞き、わらにもすがる思いで申し込んだ。
子どもを他人に預けることに不安もあったが、やって来た年配のサポーターの女性は自然に子どもを抱き上げ「熱はなさそうね。心配ないわよ」と言ってくれた。優しかった。
預かってくれる人がいるという安心感とともに、「先輩ママ」であるサポーターに話を聞いてもらえるのがうれしかった。「子どもってそんなもんよね」「大丈夫」--。そんな一言一言が心に染みた。
最近、少しずつだが、優凪ちゃんが泣いていても、いとおしいと思えるようになった。【山崎友記子】=次回は9日掲載
◇働く母親より「不安」
国立社会保障・人口問題研究所の調査によると、専業主婦か働いているかによって、生まれる子どもの数に大きな差異はない。出産後も仕事を続けてい る母親の子どもの数はこの10年、2・2人前後で推移。一方、専業主婦の場合、02年に大きく減少、05年にやや戻し2・21人になった=グラフ参照。
専業主婦の子育てに関し、大きな問題の一つが育児不安だ。
こども未来財団が06年に未就学児を持つ母親を対象に行った調査では、子育てに孤立感を感じる割合は、専業主婦が53・5%で共働きの母親の46・6%より高かった。
少子化問題に詳しい第一生命経済研究所の松田茂樹主任研究員は「育児不安が強いと、さらに子どもを産もうという意欲が低下する。背景には、親族や 近隣の支えが減ったことがある。父親の育児参加も進んでいない。子育てひろばや一時預かりなどの支援事業は不安を減らす上で重要だ」と指摘する。
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