2008-08-18

中国とまったく対照的なベトナムオフショア事情

:::引用:::
今回は、日本の小規模ソフトウェアベンダにおけるベトナムオフショア初体験の模様をインタビュー形式で紹介する。(→記事要約へ)

 今回は、東京に拠点を構える独立系小規模ソフトウェアベンダのベトナム初挑戦への取り組みをインタビュー形式で紹介します。

 今回の舞台となる有限会社ティーホッパーズは、日本のシステムインテグレータ業界に一石を投じるために廣中靖久氏が3年前に設立した会社です。同氏は、起業当初から中国・大連のパートナー企業を活用したオフショア開発を推進しています。

中国撤退を目の当たりにして独立を決断

 それでは、ここから廣中氏のインタビューを紹介します。

聞き手:幸地司
話し手:廣中靖久氏
有限会社ティーホッパーズ 代表取締役)

――なぜ安定したサラリーマンを辞めて、オフショア開発を専門とする設計・仲介の技術集団を作ったのですか?

廣中氏:初 めに私のプロフィールを紹介します。私は大学時代に電子工学を学びました。ハードウェア系にも興味はあったのですが、就職難の時代ということもあり、内定 を頂いたシステム開発会社に就職しました。その後、何度か転職を繰り返し、最後に中国・大連でオフショア開発を展開する企業に就職しました。

 その会社は、中国・大連の工数を国内で販売することが目的でした。「日本に営業拠点を持たない大連のシステム開発会社にお客 さまを紹介する」という、営業主体の会社でした。紹介した会社でプロジェクトを成功させるため、問題なくプロジェクトを運営・管理することを求められまし た。進ちょく管理、QA(品質保証)、そして、成果物の品質管理などが主な役割でした。

  ただし、中国オフショア新規参入組であるその会社にとって、安い中国での工数を国内で販売するだけでは営業的に厳しかったと思います。大手システムインテ グレータは自ら資本投下して開発拠点を作るか、中国で直接パートナー企業を見つけています。程なくして、その会社は中国オフショア開発から撤退してしまい ました。

――勢いよく中国に進出したものの、次第に担当者が疲弊して、あえなく中国から撤退する会社は後を絶ちません。ご愁傷さまでした

廣中氏:そのとき、海外の工数をただ販売するのではなく、国内で不足気味の上流工程のSEであれば、まだまだ需要があるのではないかと思いました。

 現に、オフショア開発で求められる外部設計書は、従来の記述レベルでは問題の原因になりがちです。そこで、外部設計フェイズから参加させていただき、開発、テスト工程の運営・管理と国内での受け入れテストを実施する目的で、会社を設立しました。

――以前から大連の土地勘をお持ちなのに、なぜわざわざベトナム開発に挑戦しようと思ったのでしょうか?

廣中氏:メルマガや@ITの記事などでベトナムが熱いことは認識していました。また、後発組である弊社にとっては、よくある中国でのオフショア開発というだけではインパクトに欠けると感じていました。そんなある日、東京ビッグサイトで行われていた展示会で、一コーポレーションジャパンさま(以下、ICHI)と知り合いました。そのときの会話は次のようなものです。


「単価は幾らですか?」
「○○万円です」

 ICHIはインパクトを出したかったのでしょう、

 いくらベトナムでもあり得ない価格を提示してこられました(笑)。後で具体的にお話を進める段階で各種作業内容、責任範囲と共に単価も合意しましたが、このやりとりでかなりICHIに好感を持ちました。

 このときから、何とかベトナムでの開発実績を作りたいと真剣に考えました。まずは、お世話になっているシステムインテグレータへの提案から開始しました。

中国のカントリーリスク、競合になったインドのIT大手

――その後、すぐにベトナムを視察されましたね。そのときの印象はいかがでしょうか

廣中氏:お客さまへの提案内容に信憑(しんぴょう)性を持たせるため、パートナーにお願いしてベトナムの開発現場を複数見学させてもらいました。行ってみて驚いたのですが、日中の暑いさなか、かなりの密度で開発していました。

 彼らに聞いてみると、日本からの案件の急増に伴い、開発スペースの確保が追い付かないとのことでした。長机にパソコンをたくさん並べて仕事をしています。CRTを使用しているということもあり、とにかく暑いのです。

――私は沖縄出身者なので、うだるような熱さがどれだけ作業効率を低下させるかを体で理解しています

廣中氏:ベトナム人技術者たちは、それでも平然とコーディングしていました。その開発会社は近日中に大きいビルに移転するとのことでした。アウトプットの品質を確認したかったので、作成した内部設計書を見せてほしい、とお願いしました。


  早口で大声の開発会社副社長がベトナム語で部下に指示します。すると、部下は階段を駆け上がり5センチのバインダを持ってきました。日本語で書かれた内部 設計書でした。全体的にざっと内容を確認、構成を把握して部分的にしっかり読んでみましたが、よくできた設計書でした。日本人の担当者と相当数のやりとり があったことがうかがえます。

 「では、単体テストの結果報告書を見せていただけますか?」

 すると先ほど と同様に、部下の方は階段を駆け上がり、5センチバインダを持ってきました。こんなやりとりを繰り返すうちに、打ち合わせテーブルの上は、資料だらけに なってしまいました。開発会社はこうして、正しい手順で高品質な開発を行っていることをとても熱心に私にアピールしてくれました。

――その後、すぐにベトナム開発が始まったのでしょうか?

廣中氏:いえ、すんなりとはいきませんでした。

 私がお世話になるシステムインテグレータさまに頭を下げて、何とかベトナムオフショア開発のトライアル案件を発注していただけるよう提案を繰り返しました。しかし、当然ながら、システムインテグレータさまも、すでに自前でオフショア開発を推進されています。

 ところが、たまたま私がお世話になっているお客さま企業の担当者が、中国オフショア開発のカントリーリスクを気にされていました。その会社は、私が提案するまでオフショアといえば中国一辺倒でした。

――中国のカントリーリスクとは?

廣中氏:詳 しく話を伺ってみると、SARSウイルスや為替、政治体制などをカントリーリスクとして認識されているようです。最近では、2006年12月末に起きた台 湾南部沖地震による海底ケーブル切断事故によって、一極集中のリスクがもろに顕在化しました。こういった理由では、中国沿岸部の人件費高騰を嫌って中国内 陸部に進出しても、カントリーリスクは回避できません。

――最近はベトナムではなく、インドを選択する会社が増えていると思います

廣中氏:確かにインドも有力な選択肢の1つかもしれません。

 ですが、弊社のお客さまであるシステムインテグレータさまにとって、インドIT大手はパートナーというよりも競合会社です。そういったなかで、ベトナムでのトライアル実績は、システムインテグレータにも有意義だという認識がなされたのだと思います。

英語に疲れ切ってしまったトライアル発注

――後から振り返ると、単純ですが苦労されてベトナム発注の第一歩を踏み出されたわけですね

廣中氏:はい。何度も提案書をやりとりした後に、ようやく小さなトライアル案件を頂けました。

 ベトナム委託先への発注工数は5人月弱。案件は、工場向けの出荷用の製品の品質管理システムで、かなり専門的な業務知識が要求されます。ただし、新規の開発ではなく既存システムの改修作業です。画面に絵も出てきますので、業務や設計の説明は多少楽です。

 体制は以下のようになります。

ベトナムでの体制
エンドユーザー

SIer

T-Hoppers
ICHI Vietnum
開発会社
SIerのSEが設計レビューと総合テストを担当
T-Hoppersが外部設計とキャリー、受け入れテストを担当
ICHIのベトナム法人が、翻訳・通訳・開発PMを担当
ベトナムの開発会社が内部設計・開発・単体テストを担当

――では、早速トライアル案件の開発状況についてお聞かせください

廣中氏:中国での開発の場合でも同じなのですが、弊社で開発を行う場合には常にメーリングリスト(ML)を用意します。

 Webベースの掲示板的なシステムを利用する方法もあるのですが、日本国内にサーバを置いて中国やベトナムからアクセスする場合、開発会社はレスポンス面でストレスを感じると思います。

プロジェクト概要
日本SE ベトナムSE
外部設計支援
0.5
オフショア開発コーディネート
1.3
内部設計
1.5

開発
2.0

内部結合テスト
1.3

合計
4.5人月
1.8人月

  MLであれば、各メールに自動採番された番号が付与されますので、コミュニケーションが楽になります。また、送信者自身にもメールが配信されますので、送 信ミスや不達といった問題に気付きます。ささいな内容でも、MLベースでコミュニケーションを実施し、エビデンスを残します。電話を使用するのは、催促の 場合くらいです。

 プロジェクトを発注していただいた段階で、システムインテグレータさまから頂いた要件定義書と改修元となる既存 システムのソースコード一式をICHIのベトナム開発拠点(以下、ベトナム開発拠点)に送付しました。ただし、この要件定義書にはエンドユーザーさまの専 門用語がちりばめられており、説明なしでは日本人でも理解するのは難しいものだと思います。

――業務知識について、中国とベトナムには違いがありますか?

廣中氏:お付き合いの長い中国オフショア会社のSEならば、エンドユーザーさまが作成した要件定義書が提供された後に、外部設計書以降で説明が入ることが分かっています。

 ですから、日本から専門用語がちりばめられた要求仕様が送られても、全体的な概要を把握するための参考ということが分かっていただけます。ところが、ベトナムの技術者から見ると今回が初めてのお付き合いです。不安だったのでしょう、多くの質問が発生してしまいました。

――Q&Aでは、どのような問題が発生しましたか?

廣中氏:最初に届いた質問票はすべてベトナム語で書かれていました。中国では、現地の通訳がすべて日本語に翻訳してくれましたので、まさに予想外の展開。思わず焦ってしまい、「せめて英語にしてください」と即座に投げ返してしまいました。

――とんだダメ会社をつかまされてしまいましたね?

廣中氏:いいえ。そうではなくて、実は私の勘違いでした。当時の質問票が添付されたメールには、以下のような一文が添えられていました。

There are possibly some points, we would like to confirm you about the requests. Although we can understand a little bit about the entire system. However, there are some unclear points we would like to ask. We are trying to collect, translate and give you the questions from the developers of ICHI VN soon by tomorrow.

 無料の自動翻訳サービスで日本語に訳すと以下のようになります。

「私たちは、すぐ、明日までに集まって翻訳して、質問をICHI VNの開発者からあなたに与えようとしています」

 後からメールを読み返して気が付いたのですが、どうやら私の独り相撲だったようです。ベトナム語で書かれた添付ファイルの質問票だけを見て、慌てて「せめて英語にしてください」と返しています。先方もさぞ驚いたことでしょう。

「外部設計書に記述するので待ってください」と回答された!

――ベトナム語で書かれた質問票を目の当たりにして、どんな気持ちでしたか?

廣中氏:こ のときの心理状態を思い出すと、少々英語に疲れていました。ベトナム拠点からくるメールはすべて英語でしたから、日本語で運営・管理できる中国オフショア 開発と比べて私自身が不安になっていたようです。何はともあれ、これ以降、私が書くメールは日本語、ベトナム拠点から届くメールは英語という、クロスラン ゲージなコミュニケーションが始まりました。

――共通語がない状態でベトナム開発がスタートしたのですね。危険な条件だと思いますが、いかがでしょうか

廣中氏:その時は無我夢中でしたから何ともいえません。でも後から思ったのですが、得意な言語でメッセージを書 く、というのはやはり正解でした。お互いに責任を持てる言語で書きます。読む場合は、前後のやりとりから文脈によって推測できます。不得手な言語で間違っ て書いてしまった場合、間違いや意思疎通の齟齬(そご)に気付くまでに無駄な時間を浪費してしまいます。

 要件定義書に対する質問 の多くに、「外部設計書に記述するので待ってください」という回答が多くなってしまいました。多くのプロジェクトがそうであるように、このプロジェクトも 短納期でした。本来は、外部設計書が完成して全体の整合性が取れて、お客さまからレビューをいただいた後に開発会社には設計書を送るのですが、昨今の事情 がそれを許してくれません。仕方がありませんので、できた設計書をさみだれ式に送りました。

設計書送付状況と質問票
日数
質問票
外部設計書
備考
0 ML設定。プロジェクト開始
4 既存システムのソースコード、テーブル定義、テスト用データを送付
12 16件(ベトナム語) 最初の質問票
13 16件(英語) 英語バージョン到着
15 7件回答 9件は外部設計書を待つように回答
16 8件追加質問 新規5部
17 新規2部
18 新規7部、修正7部 追加のテストデータ送付
19 8件追加回答 新規2部、修正3部
20 質問3件
22 質問6件、回答3件 修正6部 指摘の質問により、外部設計不具合を修正
23 回答2件 設計書を催促された
24 新規6部 ここで全外部設計送付完了
25 回答4件 修正4部
26 修正1部 設計レビューで修正が発生
29 修正1部
30 質問3件、回答3件 修正1部

――また、危ないキーワードが出てきましたね。日本とベトナムで設計作業を並行して、資料を「さみだれ式」に送ったのですね

廣中氏:こ のような、いかにも日本的なやり方については、発注前によく伝えました。例えば、設計書の後半部分を作成しているときに、前半部分への仕様変更が発生して しまうリスクなどについて、よく話し合いました。設計書を送るたびに、幾つかの質問を受けました。すると、ベトナム拠点の技術者がシステムを理解していく 様子が伝わってきます。現地で既存システムのビルドも完了し、実際にモノを動かしながら仕様を確認しているようでした。

完成品以外は出さない技術者魂を持ったベトナム人

――最初の納品はどうでしたか?

廣中氏:設 計書が一段落したところで、受け入れテスト環境を構築しました。試しに、ベトナムから最新の成果物を送ってもらい、受け入れテスト環境に導入してみたとこ ろ実際にモノが動きました。ベトナムでオフショア開発をしていると実感した瞬間でした。以後は、進ちょく表を眺めながら、完成した部分から受け入れテスト を実施します。問題があれば、バグ票を記述して送ります。バグの修正も早く、満足できるものでした。

――思いのほか順調ですね

廣中氏:そうはいっても、プロジェクトも終盤に差しかかってくると何かと忙しくなってきます。

 日本側としては早く修正確認を実施したいのに、ベトナムから肝心の成果物がなかなか到着しないという事態が発生しました。メールで催促しても反応がなく、電話してもうんともすんともいいません。2度目の催促の電話をかけたときに、ようやく彼らの状況が理解できました。

――どういうことでしょうか?

廣中氏:私 がお付き合いしてきた中国の開発会社は、良い意味でも悪い意味でも私の要求に素直でした。成果物を送ってほしいと伝えれば、ちょっとした問題があってもす ぐに最新リソースを送ってくれました。ところが彼らは違いました。ベトナム拠点の開発リーダーは、あくまでも自分たちの開発手順に従っているのです。従っ て、「彼らの開発手順に従い、きちんとテストを終えたものでなければ成果物として提出しない」というポリシーでした。つまり、“根っからの技術者”として 回答をしているのです。その後に届いた成果物に大きな問題はありませんでした。

――無事に納品されてよかったですね。結果オーライかもしれませんし、ベトナムの職人魂が生んだ美談かもしれません。個人的な体験ではありますが、中国とベトナムの対比が興味深いです。もう少し、コミュニケーション活動についてお聞かせください

廣中氏:4 カ月のプロジェクトでは、MLに400通弱のメールのやりとりが発生しました。これは私が携わった中国でのシステム開発に比べると少なめです。ただし、1 通1通のメールの内容は濃いように感じます。回答する際、「設計書の○○を参照してください」とか「質問票の○○番と同様です」といった、いままでの資料 をよく読んでほしいといったたぐいの質問は皆無でした。

 私が経験した中国オフショア開発では、通訳が個々の担当者からの質問をそ のまま伝えてくることがあり、開発側のリーダーの存在感を薄く感じていました。言い換えると、中国開発で経験したリーダーは優秀な技術者でしたが、優秀な マネージャとは言い難いと感じていました。今回のベトナム初挑戦では、リーダーが個々の質問を理解し、整理してから送ってきます。従って、1通のメールに 複数の質問が記載されますし、内容を理解しているので同様の質問を繰り返すことがなかったものと感じています。マネジメントの質が良かったということだと 思います。

朝送ったメールの返事が夕方まで返ってこない

――「マネジメントの質」とまでいってしまうと大げさかもしれませんが、オフショア拠点のまとめ役や窓口役の重要性を再認識させられました。今後、現地の優秀なリーダーに負荷が集中することが予想されます。そうなると、プロジェクト全体が滞る可能性がありますね

廣中氏:ベトナム初挑戦だったということもあり、日本からの質問に対する回答時間は中国よりも遅いように感じら れました。翻訳に手間取ったのかもしれません。ただし、時間はかかっても回答内容は、ベトナムの方が洗練されていたと思います。私が経験した中国オフショ ア開発では、質問すると1~2時間のうちに何らかの回答が戻ってきました。ベトナム開発では、朝の質問が夕方に届く、という感覚です。

――ベトナムからの回答時間が遅いのは、通訳がボトルネックになるからでしょうか?

廣中氏:通 訳ではなく、現地の開発リーダーがボトルネックになっていると思います。中国の開発会社では、プログラマが直接仕様書を読めるように教育されます。漢字文 化圏ということもあり、教育に掛かるコストはベトナム人に日本語を教えるよりも低いでしょう。このプロジェクトでは、優秀なリーダーがすべてを把握しよう としているように感じました。結果的にそこがボトルネックになってしまっているのでしょう。

――すぐに対応するが手戻りも多い中国、よく練られているが対応が遅いベトナム。対照的な両国ですね

廣中氏:あ くまでも私個人の体験ですが、ベトナムからの回答はよく整理されていましたし、後での訂正も最小限で済みました。その点、中国オフショア開発の際は、個別 の担当者がばらばらに対応するので回答の品質もまちまちでした。どちらも一長一短だと思います。ベトナムはもう少し技術者に日本語を教えてほしいですし、 中国は開発リーダーの統率力を高めてほしいと思いました。

まとめ

  日本からの仕事に慣れきった中国オフショア開発会社は、日本の要求のいいなりになりがちです。逆に考えると、これは過剰ともいえる適応力を持った中国人の 魅力の1つですが、ときとして結果責任を放棄する傾向があることもあちこちから報告されています。あいまいな指示や誤った指示を受けても、何の疑問も持た ずに作業を進めてしまい、後で手戻りが発生することは日常茶飯事です。

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  今回ベトナム開発に挑んだ廣中氏は、ベトナム拠点の開発リーダーが最終顧客の意図を理解しようとし、プロフェッショナル技術者としてシステム開発の目的を 達成しようとする姿に感銘を受けました。特に、外部設計など顧客から提供される上流成果物に対する質問や指摘という形で端的に示されたそうです。

  ただし、ベトナム初挑戦ゆえの贔屓(ひいき)目に見た評価かもしれません。廣中氏に「ベトナム人は優秀か」と問うたところ、即座に「まだ分からない」と答 えました。ベトナム人技術者の平均的な能力が高いのか、この出会いはまれなことなのかは、もっとベトナムでプロジェクトを実践してみないと判断できませ ん。

日本人と中国人、ベトナム人の主観的な比較表

日本
中国(大連)
ベトナム
日本とのコミュニケーション手段 日本語の仕様書を直接読める技術者は多い 通訳や翻訳後の仕様書を基にして開発を行う
教育水準 OJT至上主義。いままでやってきたことに従う。教科書通りに行うことより、現場に蓄積されたノウハウを優先する 教科書の開発方法論は知識として知っているが、顧客の要求が優先される 教科書の開発方法論を知っているし、実践するべきと考えている
仕事の仕方 チームプレー。個性的な行動は好まれない。関係者の合意を取ることが最重要 個人プレー。独創的なアイデアを褒められると大変喜ぶ。メンテナンスできなくなってしまうので、褒め過ぎないように気を付けること チームプレー。個人の個性よりも、正しいアルゴリズムなのか、方法論的に正しいのかを気にしている
バグの対応 お客さまへの仕様の確認不足による仕様変更は、外部設計フェイズのバグである 追加費用が発生するかどうかにかかわらず、仕様変更とバグの違い、責任所在にはこだわる バグが出ることは恥ずかしいことだと認識している。技術者としてのプライドは高い
品質 どうあるべきかは理解していても、明らかに時間や人手といったリソースは足りない 単体テストが十分に完了していないと分かっていても、納期優先で納品してしまう。明らかに無理な場合を除き、納期の交渉はあまり受けたことがない 細かいレベルで進ちょくを管理している。日本側の都合による仕様変更などは、納期について交渉される
人材定着率 転職より、転業(SEを辞めてしまう)されそう 高給優遇に弱い。最近は飽和感あり もしかして、日本よりアメリカの仕事の方が好き?

 唯一いえることは、今回たまたまプロジェクトを担当したベトナムの技術者は、これまでの廣中氏が中国オフショア開発で出会った技術者よりも、「相性が良かった」ということだけです。それでも、廣中氏はベトナムの可能性に明るい未来を見いだします。

「ベトナムは日本と同様、勤勉で誠実な人が多いと聞きます。視察で訪問した際に街で見掛けた土産物には大変繊細な加工が施されたものが多いです。もし職人の技術が正しく評価される社会なのであれば、システム開発の土壌として優れたものがあると思います」(廣中氏)

筆者プロフィール
幸地 司(こうち つかさ)
琉球大学非常勤講師
オフショア開発フォーラム 代表
アイコーチ株式会社 代表取締役
沖縄県生まれ。


九 州大学大学院修了。株式会社リコーで画像技術の研究開発に従事、中国系ベンチャー企業のコンサルティング部門マネージャ職を経て、2003年にアイコーチ 株式会社(旧アイコーチ有限会社)を設立。現在はオフショア開発フォーラム代表を兼任する。日本唯一の中国オフショア開発専門コンサルタントとして、ベン ダや顧客企業の戦略策定段階から中国プロジェクトに参画。技術力に裏付けられた実践指導もさることながら、言葉や文化の違いを吸収してプロジェクト全体を 最適化する調整手腕にも定評あり。日刊メールマガジン「中国ビジネス入門~失敗しない対中交渉~」の執筆を手掛ける傍ら、東京・大阪・名古屋・上海を中心 にセミナー活動をこなす。

オフショア開発フォーラム:http://www.1offshoring.com/
アイコーチ株式会社:http://www.ai-coach.com/
■要約■
今回は、小規模ソフトウェアベンダのベトナムオフショア初体験の模様をインタビュー形式で紹介する。廣中氏によると、ベトナムの開発リーダーが最終顧客の 意図を理解しようとし、プロフェッショナル技術者としてシステム開発の目的を達成しようとする姿に感銘を受けたという。特に、外部設計など顧客から提供さ れる上流成果物に対する質問や指摘という形で端的に示されたという。

ベトナムの技術者は「バグが出ることは恥ずかしい」と認識し、技術者としてのプライドは高い傾向がある。また、細かいレベルで進ちょくを管理しており、日本側の都合による仕様変更などは納期について交渉されるといった特徴がある。

一方で、リーダーがボトルネックになることがある。中国の場合は、プログラマが仕様書を読めるように教育されているが、ベトナムでは優秀なリーダーがすべ てを把握しようとしているためだ。つまり、「すぐに対応するが手戻りも多い中国、よく練られているが対応が遅いベトナム」という表現ができそうだ。

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