見知らぬ外国人と、いかに共存するか-。新潟県の海の玄関口、新潟東港の周辺住民に、この難題が突きつけられている。 ロシア向け中古車輸出の拠点、東港周辺では近年、ロシア人による凶悪犯罪が相次いでいるからだ。強盗、殺人に加え、県警が捜索した中古車整備工場では手投 げ弾や短銃の実弾も発見された。県警などは来年5月、新潟市で開かれるサミット(主要国首脳会議)労働相会議に備え、不法入国者の取り締まりを強化する一 方、外国人と地域住民との融和を図る試みも始まった。「共生」と「治安」の両立を目指す取り組みを追った。(永岡栄治)新潟市北区と聖籠 町にまたがる新潟東港は、ロシアなどに年間約5万台の中古車を輸出する。周辺にはロシア語の看板が立ち並び、パキスタン人が経営する中古車販売店約 170軒がひしめく。中古車の買い付けなどで新潟県を訪れるロシア人は平成17年、約1万4500人に上り、大半は短期ビザで出入国を繰り返している。
東港から東に約12キロ離れた新発田市上館。のどかな農村地帯に今年4月、衝撃が走った。県警の捜索で、中古車整備工場から手投げ弾2発や短銃の実弾16 発、偽造外国人登録証、盗難車1台などが見つかったのだ。盗難車を改造して密輸する拠点とみられ、複数の偽名を使って出入国を繰り返していた工場主のロシ ア人男は入管難民法違反で有罪となり、国外退去処分を受けた。
すぐ隣の茗荷谷地区の大沼和夫区長(61)は「工場はフェンスで囲われ、何 をしているか分からなかった。手投げ弾まであったとは」と驚く。工場は児童の通学路の途中にあるため、現在も警察官が毎朝、登校児童に付き添っている。大 沼さんは「今度は別のロシア人が来て作業をしている。工場そのものを撤去しなければ不安は解消しない。ただ、あまりに排除すると、嫌がらせを受けるかもし れない」と住民の不安を代弁する。
11月25日未明には、聖籠町次第浜の中古車販売会社敷地内のプレハブ住宅で、就寝中のロシア人従業員 がロシア人風の男数人に暴行され、約40万円を奪われた。昨年8月には、敷地内の別のプレハブ住宅で寝泊まりしていたロシア人男性が、新潟市北区島見町の コンテナで他殺体で見つかった。
近くに住む男性(65)は「夕方、町の日帰り温泉に行くとロシア人ばかりで、ロッカーの使い方を教えた。ただ、こう事件が続くと不安になる」と声を潜める。
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ロシア人の犯罪には、中古車販売業を営むパキスタン人も頭を痛めている。日本人女性と結婚して帰化した小島夢者人(むじゃひど)さん(47)=新潟市北区 川西=は「4年ほど前から、ロシア人の犯行とみられる盗難がひどくなり、車のタイヤなどが次々と盗まれた。また、ロシア人の犯罪が起きると、日本人からは 同じ目で見られるのがくやしい」と怒りをあらわにする。
同区太郎代には、プレハブでできたモスク(イスラム教の礼拝堂)があり、金曜日に は、 100人を超すイスラム教徒が礼拝に訪れる。小島さんは「イスラム教の教えでは、人を殺すと、いつまでも地獄に落ちたまま。だから、イスラム教徒が お金を狙って殺したり、テロを起こすことはありえない」と訴える。本来は禁じられている礼拝風景の撮影をマスコミに許可しているのも、地域の人にイスラム 教を理解してもらいたいからだ。
10月25日、地域住民とパキスタン人の交流が、一歩深まる出来事があった。太郎代で不法投棄されたごみ の清掃に一緒に汗を流した。北区や新潟北署の呼びかけで、中古車販売業を営むパキスタン人ら20人も参加。住民と力を合わせ、ごみ約7トンと古タイヤ約 300本を回収した。
太郎代自治会の吉田広会長(67)は「力が強く、重い冷蔵庫やテレビを運んでくれて助かった」と感謝する。小島さんも「住民の方と交流するちょうど良い機会だった」と満足そうだった。清掃活動は来年以降も続ける予定だ。
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入管難民法の改正で11月20日から、16歳以上の外国人は原則、入国審査の際に指紋採取や顔写真撮影が義務づけられた。県警などの関係機関は11~12月、空港や船舶上でテロ対策合同訓練を行い、サミットに向け万全を期す。
県警外事課の小幡政行課長は「空の入国審査が厳しくなった分、船を使った密入国の増加が懸念される」と警戒する。別の捜査員は「県内の外国人の大部分は善良であり、彼らと良い関係を築くことが不審者情報のいち早い入手につながる」と話す。
「外国人との共生」と「治安の維持」。両立させるには、硬軟を織り交ぜた対策がカギとなりそうだ。
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