2008-11-05

グリーンITの2つの推進力──環境規制の強化と貢献評価の仕組み

:::引用:::
本稿では,前半で,企業を取り巻く温暖化防止関連の規制や制度の動向について解説する。また後半では,企業の環境や社会への貢献(環境力)を評価し,投資・融資に活用する動きについて見ていく。

国内排出量取引の試行実験が始動

 環境問題への取り組みの中でも,地球温暖化の防止は,資源の有効利用や有害物質の管理といった他の取り組みに比べ,相対的に対応が不十分であり,今後はより力を入れていかなければならない。

 先頃,政府の地球温暖化対策推進本部は,国内排出量取引制度の試行内容を固め,参加企業の募集を開始した。当初,企業は自主的に削減目標を設定し,目標を超えて排出削減を達成した場合にはその分を排出枠として売却可能となる。

 注目すべきは,大企業が中小企業に対して技術/資金援助して実施した排出削減分を,国内クレジットとして認めていることだろう(国内CDMによる排出 枠)。これまでは,地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法),エネルギーの使用の合理化に関する法律(省エネ法)及び自主行動計画などにおいて,目標 達成のために充当できる排出枠としては京都クレジットしか認められていなかった。しかし,この制度により国内での削減によるクレジットを充当可能になった のである。

 また,排出量取引に参加するような大口排出者のみではなく,幅広く環境負荷を分散させる仕組みとして,環境税に関する検討も行われている。石炭, 石油,天然ガスなどに,燃料として使用されたときのCO2排出量に応じた税(炭素税ともよばれる)を課すことによって,クリーンなエネルギー利用を促し, 低炭素化を怠った企業の負担を重くするというものである。環境省は2004年と2005年に環境税の具体案を発表している。

 ちなみに英国では,2009年4月から国内の排出権取引制度が始まる。Carbon Reduction Commitment*1により,約5000の民間企業や政府機関などに,排出量を測定してレポートする義務が課されることになった。

東京都は大口排出者に総量削減義務,違反者には罰金も

 国の取り組みに先行する形で,温暖化政策を推進しているのが東京都である。2008年7月に都は,大規模事業所に対する「総量削減義務と排出量取 引制度」を公布。これまでは,企業は温室効果ガスの排出量の削減について「対策推進義務を負う」,すなわち自主性に任されてきた。それが新しい制度では, 「排出総量の削減義務を負う」とともに,排出量取引制度も導入されることになった。

 また,以前は取り組みが不十分な事業所については,「勧告・違反事実の公表」にとどまっていたが,新制度では「義務不足量×最大1.3倍の削減を 命じる措置命令」が出されることになる。さらに,命令違反の場合,東京都知事が命令不足量を調達し,対象事業者にその費用を請求し,罰金という強いペナル ティを課すものとしている。

 大規模事業者を対象とした温室効果ガスの排出総量削減義務と排出量取引制度は,2010年から導入される。それに先立ち,2009年からは,企業 の各事業所における排出量のモニタリングとレポート,排出権取引関するトライアルが開始される。なお,排出量取引制度に基づく排出量の算定には,第三者検 証が必須であることを付け加えておきたい。

企業の「環境力」を評価する仕組み作りが進む

 排出権取引や環境税は,企業が事業活動に伴って排出する温室効果ガスを基にした仕組み,つまりネガティブな影響をコストとして支払う仕組みである。これ に対し,企業の環境や社会への貢献(環境力)をポジティブに評価し,投資・融資に活用する仕組み作りの検討も進んでいる。

 企業経営の評価軸として,経済状況のほか,社会的価値観を取り入れたものにSRI(Socially Responsible Investment:社会的責任投資)がある。英国のFTSE4GOOD*2などのインデックスでは,企業のランキングにおいて,CSRの観点から好ま しくない銘柄の排除が行われている。

 国内でも多くのエコファンドが存在するが,企業が自主的に公表するCSRレポートや環境報告書の情報のみでは比較が難しく,しかも公開・報告の面 で投資家と十分コミュニケーションを図りきれていないのが現状である。しかし,FTSE4GOODで提供される評価指標に基づき,排出権取引や課税を通じ て炭素に価格がつくことによって,環境情報が投資的判断に活用しやすくなっていく。

 また,先日発表があったばかりのCarbon Disclosure Project( CDP )*3にも注目したい。CDPは投資家からの要請として,企業に排出量の公開を求める団体であり,CDPは今年,世界中の1550社の企業から,排出量に 関するデータを収集した。この排出量は,世界の総排出量の26%に相当する。金融ニュースを提供するBloombergでも,投資家が排出量と排出権の値 段や電力コストとあわせて評価することを可能にするために,今年からCDPのデータが公開されることになった。このことを見ても,CDPの情報が中立的・ 客観的なものであるといえよう。

 今後,日本でも,FTSE4GOODのようなグリーンカンパニー投資インデックスの策定が行われ,有価証券報告への記載などを通じた環境情報報告 が義務化されていく可能性が高い。 CDPは企業の環境活動について世界最大のデータベースを持つ環境情報公開のデファクトスタンダードであるが,そのスコープ3(事業の結果として生じた, 他の事業者が所有または管理している排出源からの間接的な排出)と呼ばれる分類で定義される報告範囲には,サプライチェーンも含まれている。「環境を力に する」企業にとって,投資家に正確に情報を伝えるためにはサプライチェーンを含んだ排出量を算出,管理することが課題になるであろう。

 次回は,国内外における先進的なグリーンITの取り組み事例を紹介し,今後の企業経営における貢献のあり方について考察する。


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