2009-02-06

皇太子さまベトナム訪問前の会見

:::引用:::

 皇太子さまは5日、ベトナム公式訪問を前に東宮仮御所で記者会見された。会見のやりとりは以下の通り。

――(宮内記者会代表質問)昨年、日本との外交関係樹立35周年を迎えたベト ナム国へ訪問するに当たっての抱負をお聞かせください。初めての社会主義国のご訪問となりますが、ベトナムにどのような印象をお持ちでしょうか。ベトナム には大規模な内陸水路網があり、ベトナムを含め中国やタイ、ラオスの国境などアジア各国を流れるメコン川の視察も日程に組み込まれています。水問題につい ても関心を深められる日程と拝察しますが、視察先への期待や興味もお聞かせください。

ご回答

 昨年、外交関係樹立35周年を迎えたことを記念し、ベトナム国からのご招待により、このたび初めてベトナム国を訪問できますことを大変うれしく思っております。ご招待いただいたベトナム国に対して心からお礼を申し上げたいと思います。

 日本とベトナムとの関係は、現在あらゆる分野で緊密化していると聞いており、私の訪問が両国及び両国民の友好親善の一層の促進に貢献できるようで あれば幸いです。また、今回のベトナム訪問は、私にとってメコン地域への初めての公式訪問となることから、同地域の日本にとっての重要性を実感し、同地域 と日本とのさらなる関係強化を図っていくためにも今回の訪問が意義深いものとなることを希望しています。メコン地域への訪問としては、以前にタイ国を訪問 したことがあります。その折、飛行機が今回訪問する予定のベトナム中部の町ダナン市の上空を飛行したことをよく覚えています。

 ベトナムといいますと、戦争による痛手と長年にわたる困難な時代を乗り越え、国民一人一人が国づくりに努力され、近年、目覚ましい発展を遂げてい る活力に満ちた力強い国という印象があります。またベトナムの方は向上心が高く、勤勉であるとの評判も耳にします。食糧の自給率は100%を超え、石油・ 天然ガスなどの豊富な天然資源にも恵まれています。日本とベトナムはコメを主食とし、はしを使い、漢字を取り入れる等の共通の文化や歴史を持っており、親 しみやすさを覚えます。

 ベトナムと日本との間には、近年の関係発展だけでなく長い交流の歴史があります。古くは古今集に歌が残されている阿倍仲麻呂がベトナムを訪れてい ますし、16世紀から17世紀にかけて朱印船貿易の時代に最盛期を迎え、数多くの我が国の商人が訪れ、当時、東西交易の拠点として栄えた中部の港町ホイア ンには日本人町がつくられ、北部のフォーヒエンも交易港として栄えていました。我が国よりは銅や銅銭が主に輸出され、ベトナムからは生糸、沈香(じんこ う)、砂糖、陶磁などが主に輸出されていたようです。今回の訪問でそのホイアンを訪問し、当時の日本人町や交易品の出土品などを見ることを今から楽しみに しています。

 また中部の古都フエを訪れる際には、フエ音楽院でベトナムの伝統音楽ニャーニャックの演奏を聴く機会があるというふうに聞いています。日本の雅楽 とベトナムのニャーニャックは同じ漢字表記をし、日本の雅楽の中には8世紀にベトナム中部にあった林邑(りんゆう)国の僧侶によって伝えられた舞楽があ り、林邑楽として現在も皇室に伝わっていることからも日本とベトナムのえにしを感じます。

 現在の日本とベトナムの両国関係は、「アジアの平和と繁栄のための戦略的パートナーシップ」を構築していくことに合意するほどに緊密になり、一昨 年にはチェット国家主席が国賓として来日されました。両国間で経済連携協定も合意され、今後、経済関係はますます発展することが見込まれます。毎年約40 万人の日本人がベトナムを訪れ、3万人以上のベトナムの方が我が国を訪問し、大変身近な国になっているとうかがっています。

 このような中で昨年、両国は外交関係樹立35周年を迎えました。9月には、これを記念してベトナムフェスティバルが催され、私も開会式に出席する 機会を得ました。このフェスティバルには15万人もの人々が集まり、私はそこに集う両国の人々の熱気と活気を強く感じました。このような両国の関係をさら に強化し、信頼と友好の絆(きずな)を確かなものとしていくためには、特に若い世代の活躍が大切であると考えます。今回の訪問では、ハノイではグエン・ ディン・チェウ小中学校を、フエではフエ音楽院を、ホーチミン市では日本・ベトナム人材協力センターを訪問することとしておりまして、また日本人学校の訪 問やベトナムで活躍されている青年海外協力隊のみなさんとお会いすることも予定されております。両国の若者たちの活動を目にし、話をうかがうことを楽しみ にしております。

 今回の訪問では、日本とのゆかりが深い場所や文化、ベトナムの美しい自然を視察させていただくとともにチェット国家主席への表敬やゾアン国家副主 席、各地方政府の長との会見、日頃から両国の友好関係の構築に貢献されているベトナムの方々や在留邦人の方々とお会いする機会が予定されています。そのよ うな貴重な機会を通じ、両国の友好関係の一層の緊密化に貢献できればうれしく思います。

 またそれとともに私自身、ベトナムの国と人々への理解を深めていきたいと思っております。メコン川については、今回、間近で見るのは初めてです が、私の個人的な研究テーマである水や水運の観点を含めてメコン川についてこの機会にいろいろと知りたいと思います。私は一昨年、国連事務総長からの要請 を受け、国連「水と衛生に関する諮問委員会」の名誉総裁に就任いたしました。メコン川は中国、ミャンマー、ラオス、タイ、カンボジア、ベトナムを流れる国 際河川です。メコン川流域では豊かな自然に育まれた農作物を中心とする流域国間の交流が盛んであり、その過程で水利用や水運に関する国際協力の枠組みが形 成されていると聞いております。訪問するベトナムはメコン川の最下流に位置し、メコン川によって形成された下流の肥沃なデルタ地域は、世界有数の穀倉地域 であり、ベトナムの経済を支えている一方で時には洪水による被害に悩まされてきたと聞いています。このようなアジアの大河の状況を直接見ることができる機 会を楽しみにしております。

 また本年は日本とメコン地域の国々との交流年ということで、日本とメコン地域との関係を強化するために様々な交流行事が行われると聞いています。このような特別な年にベトナムを訪問し、メコン川を実際に視察できることをうれしく思います。

――今回のベトナム訪問について、妃殿下が同行されるか検討が続けられたとの ことですが、同行されないことになりました。ご体調を考慮してのことと思いますが、最終的にどのような判断だったのか、今後の両殿下での外国訪問実現への 見通しを含め、殿下のお考えをお聞かせください。

ご回答

 今回、ベトナム国からご招待いただいたことを雅子も大変ありがたく思っており、お伺いできないことを本人はもとより私も残念に思っております。外 国訪問は日本と諸外国との相互理解と友好親善を増進する上でも大切なものであると考えておりますが、同時に雅子は依然として病気治療中であり、外国訪問に ついては移動距離、訪問期間、訪問中の行事などの観点から慎重な判断をする必要があります。

 今回の訪問についても、お医者さまとも相談のうえで総合的に判断して私一人で訪問することといたしました。お招きいただいたベトナム国の方々のご厚意にお応えできないことを申し訳なく思っておりますが、ご理解いただきたく思います。

 今後の外国訪問についてはケース・バイ・ケースで、お医者さまと相談しつつ判断することになろうかと思います。基本的には前からお話ししているように外国訪問は我が国と諸外国との友好親善を増進するうえでもよい機会であり、今後とも大切にしていきたいと考えております。

 いずれにしましても雅子としては少しでも多くの公務ができるように頑張っておりますので、長い目で温かく見守ってくださるようお願いいたします。

――(在日外国報道協会代表質問)今回のベトナム訪問は昨年6月のブラジル訪 問以来、4か国目の海外ご訪問となります。殿下のご関心の高い分野である水の問題を抱えるベトナム訪問も、殿下が以前からおっしゃっています公務の見直し に向けての何かしらの手がかりになりますでしょうか。天皇陛下と雅子妃殿下もストレスによってご病気をなされたようですが、新しい皇室・公務のあり方につ いてのお悩みも、お心のご負担になっているということはおありでしょうか。

ご回答

 水の問題はいまや世界が直面している地球温暖化を含む環境問題や資源問題の重要な課題の一つとなっており、個人的に大きな関心を寄せています。ま た国連事務総長からの要請を受け、国連「水と衛生に関する諮問委員会」の名誉総裁に就任しており、国際会議への出席などを通じて水の問題の重要性を広く皆 さんに知っていただきたいと思っています。今回視察するメコン川は、この地域の主要な国際河川であり、その視察を通じて私の研究をさらに深めることがで き、それが公務を果たす上でいくらかでも役立つことができればと思っております。

2009年2月5日 読売新聞)

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